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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)165号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第一九号証(本件公報)、甲第二〇号証(昭和五九年一〇月一日付け手続補正書)によれば、本件発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。

本件発明は室内用障子戸に関するものである(本件公報第一欄第三四行)。

従来、障子戸において、竪、横の框を金属製にした強固な障子戸が知られているが、金属に障子紙を貼着せしめるのは困難であり、剥れ易いので組子は依然として木によつて製造している。このため、使用中に組子を損傷することが多く、またこのような障子戸を造る場合には、金属製の型材を加工する機械と木工機との両者を設備する必要があり、障子戸の製造に際して、その設備に多くの費用を要する等の難点があつた(同第一欄第三五行ないし第二欄第七行)。

本件発明は、右知見に基づき、障子戸の組子を金属製にして強固なものにするとともに、その金属製組子に障子紙を貼着する場合に、障子紙が剥れることなく、また、塵や埃が堆積することがなく、さらには結露水が直接障子部材に付着せず、外観体裁が常に良好な室内用障子戸を提供することを目的とし(同第二欄第七行ないし第一四行)、本件発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである(手続補正書第一行ないし第九行)。

本件発明は、前記構成を採用したことにより、障子部材が剥れにくいとともに、組子は堅牢であつて損傷することがなく、また、障子部材と組子の取付け面間の両側に溝ができないから塵又は埃が組子と障子部材との間に堆積して払い落とすことが困難になるような恐れは全くない。さらには、組子と障子部材との間には比較的結露し難い木製等の目地部材が介在されているため、結露水が障子部材に触れ、直接障子部材を汚すことがないという作用効果を奏するものである(本件公報第四欄第五行ないし第一八行)。

2 第一引用例ないし第五引用例及び第七引用例、並びに先願公報、審決における甲第八号証ないし甲第一六号証(訴訟においては前記甲第一六号証は提出されていないが、その余の証拠は同一の号証番号でもつて提出されている。)には、審決認定の技術的事項が記載されていることは原告も争そわないところである。

3 取消事由(一)について

原告は、第一引用例記載のものにおける嵌着部材は微細粒子の充填剤で、表面が微細粗面状のものであり、これを断面U字形の桟に充填した後、この嵌着部材に障子紙を貼着しなければならない必要上、微細粗面状の表面は、少なくとも桟よりも膨出していることが予定されており、また、桟が薄肉の場合は、嵌着部材が断面U字形の桟の側面と略同一幅になるものであるから、当業者であれば、第一引用例記載のものから本件発明の目地部材の構成を看取し得るものである旨主張する。

しかしながら、第一引用例には、前記「審決の理由の要点」3(一)(1)に記載のとおりの技術的事項が記載されていることは原告も自認するところであり、さらに、成立に争いのない甲第一号証によれば、第一引用例には、「この変形状組子桟の障子枠9の内周端縁と組子桟7の表側端部縁および、充填6の微細粗面の表面とに貼着用の接着剤を塗着し、貼着用資材(中略)を塗着するものである(第三欄第三行ないし第七行)。」と記載されていることが認められる。これらの事実に充填剤の表面は桟と同一面にあることを示す第2図(別紙図面二参照)からすると、第一引用例記載のものは、断面U字形の桟の凹溝内に充填剤を桟と面一に充填することによつて、接着剤の接着を強固にして貼着部材の剥離を防止したものであつて、充填剤を桟から膨出させて組子と障子部材との間に間隙を形成させ、その幅も組子と略同一にするという技術的思想を有するものではない。したがつて、第一引用例記載のものから、本件発明の目地部材の構成を看取ることはできない。

また、原告は、第五引用例記載のものにおける十文字形楔(7)は、部材の寸法精度や打ち込みの強弱によつては桟(1)、(2)の表面から突出することは当業者であれば容易に予測し得るものであり、そして、障子部材との貼着を容易にするには、貼着面が大きいほうが適当であるとの技術も第五引用例記載のものから看取ることができる旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第五号証によれば、第五引用例の実用新案登録請求の範囲には、「竪桟と横桟が各一側面に底部が拡張した凹溝を設け、その側面が互いに画一になるように横桟が嵌まる切欠部を竪桟に形成し、切欠部に嵌めた横桟に竪桟の凹溝を開通する切欠部を設け、合成樹脂の十文字形楔に、凹溝の底部に嵌合する突条の掛止部を設け、この楔を交差する凹溝に打込んで竪桟と横桟を連結したことを特徴とする金属製組子(第一頁第五行ないし第一二行)。」と記載され、考案の詳細な説明には、「この考案は、竪桟と横桟が強固に組合つて一側面が互いに画一を保持する(第一頁第一四行、第一五行)」「両桟(1)(2)の各一側面に底部(3)が拡張した凹溝(4)(4´)を設け、その側面が互いに画一になるように(第二頁第二行ないし第四行)」「この楔(7)を介して竪桟(1)と横桟(2)が強固に連結し、両桟(1)(2)の一側面が画一に保持される(第三頁第四行ないし第六行)」と記載されていることが認められる。右事実及び第3図、第4図(別紙図面四参照)からすると、第五引用例記載のものにおける十文字形楔(7)は、桟(1)、(2)と面一になるよう打ち込まれるものであることが認められ、第五引用例の記載から、十文字形楔(7)が桟(1)、(2)より突出した状態になるものを予測することはできない。

したがつて、第一引用例あるいは第五引用例記載のものからして、目地部材を本件発明のように構成することは、目地部材を組子に取付ける際の設計的事項にすぎないとする原告の主張は採用し得ない。

原告は、また、本件発明の目地部材は第三引用例記載のものにおける木製の「補助上下縁4」に相当するところ、これらは本件発明の目地部材と同様の構成を有するものであり、両者は産業上の利用技術分野を同一にするものであるから、第三引用例記載のものを目地部材に適用して本件発明の構成を得ることは容易に想到し得ることである旨主張する。

しかしながら、本件発明は、前記1で認定したとおり、金属製組子に障子紙を貼着する場合に、障子紙が剥れることがなく、また塵や埃が堆積することがなく、さらには結露水が直接障子部材に付着せず、外観体裁が常に良好な室内用障子戸を提供することを目的として本件発明の要旨記載のとおりの構成を採用し、その結果右目的に叶う作用効果を奏するものである。

一方、第三引用例には、「合成樹脂製主上下縁の蟻溝2に木製補助上下縁4を嵌合してなる襖」との技術的事項が記載されていることは原告も認めるところ、さらに成立に争いのない甲第三号証によれば、第三引用例には、「上下縁の補助上下縁は襖の開け閉め時において鴨居と敷居とによつて摩減るのを見込んで木材で形成し、任意に取換えられるようにしてある(第一頁右欄第九行ないし第一二行)。」と記載されていることが認められる。右記載からすると、第三引用例記載のものにおける補助上下縁は、襖の開け閉め時において鴨居と敷居とによつて摩減るのを見込んで木材で形成し、任意に取り替えられるようにした主縁に対する補助部材であつて、前記した本件発明の目地部材とは、その適用対象部分を異にし、目的、作用効果が明らかに相違するものである。

したがつて、第三引用例記載のものの「補助上下縁」の構成を目地部材に適用して本件発明における目地部材の構成を得ることが容易になし得るものとはいえず、この点における審決の判断に誤りはない。

原告は、本件発明の目地部材と第三引用例記載のものの補助上下縁は構成の一部が共通であり、また、両者は間仕切り用建具として産業上の利用技術分野を同一にするもので、適用対象部分としても襖の枠と障子戸の桟というようにきわめて近接した技術である上、本件発明の目的、作用効果は従前の木製障子戸の桟に広く認められたものであつて、本件発明の特有のものでないこと等の特殊事情を考慮すると、当業者は第一引用例及び第五引用例記載のものに第三引用例記載のものを組み合わせて本件発明の構成を得ることは容易である、と主張する。

しかしながら、前記したとおり、両者は、障子戸と襖、枠と桟であることに相違があるというのではなく、その機能する対象部分、目的、作用効果が全く相違するものであつて、技術上同一の分野にあるものとはいえないのである。したがつて、原告の右主張は採用し得ないものである。

3 取消事由(二)について

原告は、先願公報記載のものは目地部材について適宜かつ任意の構成を採り得るものであり、一方、本件発明の目地部材は組子の側面の幅に対し広狭適宜の幅を採り得るものであるから、これが狭い幅の場合は、先願公報記載のものと同一のものを現出することになる旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第一六号証によれば、先願公報の実用新案登録請求の範囲には、「竪桟2と横桟5を井桁状に組込んだ組子1を組子枠11に装着して成る紙貼り障子において、アルミ押出型材からなる桟の一側面に木製補助桟8を取付けるとともに、該補助桟の表面に障子紙9を貼着したことを特徴とする金属製障子(第一欄第二行ないし第六行)。」と記載されており、右記載からすると、先願公報記載のものにおける木製補助桟は、前記1で認定したところの本件発明における目地部材の構成、すなわち、一定の厚みを有し、組子と障子部材との間に一定の間隙を形成するとともに、組子の側面と略同一幅若しくは広幅の当接部を有するというように構成が特定されているものではない。

したがつて、両者は、右の点において構成が明らかに相違し、同一であるとはいえないものである。

原告は、先願公報には、「もつとも、補助桟8、8´及び桟2、5において、これらの表面に多少の段差があつても問題はないし、又前記凹溝3、6及び補助桟8、8´の形状は実施例のものに限られないことはもちろんである(第二欄第二四行ないし第三欄第四行)」と記載されており、このことは先願公報記載のものの構成要素に一定の広がりを有していることを示すものである旨主張する。

確かに、前掲甲第一六号証によれば、先願公報には原告主張の前記記載が認められるが、先願公報の記載全体からすると、右記載の意味するところは、単に、補助桟8、8´を桟2、5に嵌合した際、その表面は必ずしも面一状でなくとも、多少の段差があつてもよい、という程度のことにすぎず、先願公報記載のものにおいて、障子紙の剥離を防止し、塵や埃が堆積することなく、さらには結露水が直接障子部材に付着しないようにするという技術的課題の下に、補助桟8、8´に一定の厚みを持たせて組子と障子部材との間に一定の間隙を形成させ、その幅は組子の側面と略同一幅とするという技術的思想が開示されあるいは示唆されているものとはいえない。

したがつて、原告の前記主張は採用し得ない。

5 取消事由(三)について

原告は、本件発明の目地部材の構成は、第七引用例記載のものを考案する過程並びにその完成品において実現せられているものである旨主張する。

成立に争いのない甲第七号証によれば、第七引用例の実用新案登録請求の範囲には、「金属材より押出成形した横桟(5)と、横桟(5)より肉厚の竪桟(2)に、夫々内向突縁部(13)(13)と(16)(16)を有する凹溝(3)(6)を設け、竪桟(2)に横桟嵌合用の切込溝(4)を、又横桟(5)に凹溝(6)の開口巾(1)と同じ切欠部(7)を設け、横桟(2)の凹溝(3)より、竪桟(2)の切込溝(4)に嵌合する横桟(5)の切欠部(7)を経て、再び竪桟(2)の凹溝(3)に挿入する木製の連結材(8)と、横桟(5)の切欠部(7)(7)間に嵌合する連結材(8)の表面を、竪横桟(2)(5)の表面と同一平面になるようにし、強固(「個」は誤りと思われる。)な組立と障子紙(9)の糊付を強力にしたことを特徴とする金属製組子(第一頁第四行ないし第一五行)。」と記載され、考案の詳細な説明には、「この考案は、竪桟と横桟の組立を簡単にすると共に、組立連結材を利用して障子紙の糊付けを容易にした金属製組子の改良に関する(第一頁第一七行ないし第二頁第二行)。」「そこでこの考案は、組子を構成する竪桟と横桟に桟組立連結用の凹溝を穿設しておき、木製の連結材にて竪桟と横桟を組立連結し得るようにすると共に、両桟を組立連結する木製の連結材にて、障子紙の糊付を容易にしたものである(第二頁第一三行ないし第一六行)。」「該切込溝(4)は横桟(5)を竪桟(2)と交差するように嵌込み、且つ竪桟(2)と横桟(5)の表面が一致するように切欠されている(第三頁第七行ないし第九行)。」「(8)(8´)は竪桟(2)と横桟(5)の凹溝(3)(6)内に嵌合される木製の連結材で、連結材(8)は竪横桟(2)(5)に嵌合した際、その表面が両桟(2)(5)の表面と一致し(第三頁第一二行ないし第一五行)」「該障子紙(9)は凹溝(3)(6)を設けた竪横桟(2)(5)の表面と、竪横桟(2)(5)の凹溝(3)(6)に嵌合する連結材(8)(8´)の表面に糊(14)を付けて糊着される(第四頁第三行ないし第六行)。」と記載されていることが認められる。

右記載からすれば、第七引用例記載のものは、金属製の竪桟と横桟の組立連結を容易にするとともに、障子紙の糊付けを強固にすることを目的とし、竪桟(2)と横桟(5)を交差して配置し、右桟に夫々設けた凹溝(3)、(6)に木製の連結材(8)を嵌合するもので、該連結材(8)の表面は竪桟(2)、横桟(5)の表面と同一平面になるよう構成され、障子紙を貼着する際の糊付けは、連結材のみならず、竪横桟の表面にもなされるものであることが認められる。

他方、本件発明は、金属製組子に障子紙を貼着する場合に、障子紙が剥れることなく、また塵や埃が堆積することがなく、さらに結露水が直接障子紙部材に付着せず、外観体裁が常に良好な室内用障子戸を提供することを目的とし、目地部材が一定の厚みを有して組子と障子部材との間に一定の間隙を形成するとともに、組子の側面と略同一幅若しくはより広幅の当接部を有するという構成を採用したものであることは前記1で認定したとおりである。

してみると、両者は、目地部材についての構成が明らかに相違するものであり、両者が同一のものであると認めることはできず、原告の無効事由(三)についての審決の判断に誤りはない。

原告は、第七引用例記載のものを実施する過程において本件発明の構成が実現されている、と主張しているが、第七引用例記載のものは、前記したとおり、竪桟と横桟を交差して配置し、該交差箇所に連結材を嵌合し、連結材と竪横桟の表面を同一にするという構成を採用したことに技術的思想を有するものであつて、連結材の取り付けの一過程に技術的思想があるものではない。したがつて、原告の右主張は採用し得ない。

5 以上のとおりであつて、原告の無効事由(一)ないし(三)に対する審決の判断はいずれも正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編注1〕本件発明の要旨は左のとおりである。

金属製の組子4、4´の一側面に目地部材5、5´を取付けてなり、この目地部材5、5´は一定の厚みを有して組子4、4´と障子部材6との間に一定の間隙を形成するとともに、組子4、4´の該側面と略同一幅若しくはより広幅の当接部5a、5´aを有し、この当接部5a、5´a外表面に障子部材6を貼着してなることを特徴とする障子戸(別紙図面一参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

<省略>

<省略>

別紙図面二

<省略>

別紙図面四

<省略>

<省略>

(以下省略)

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